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古代ギリシャの柱は真っ直ぐじゃない!?~エンタンスに秘められた美と知識~
2025.6.10皆さんこんにちは!タナベ住建の林です!
今回は古代ギリシャの柱について紹介しようと思います!
建築に興味を持ち始めた人が驚く事実の一つが、「古代ギリシャの神殿の柱は、実は真っ直ぐではない」ということです。

「え?あんなに整然と並んで、堂々とした柱が?」と不思議に思うかもしれません。
でもこれはギリシャ建築の奥深さを象徴する、**高度な視覚補正技法=エンタシス(Entasis)**という設計の工夫なのです。
■ 「まっすぐ」は実は「曲がって見える」
まずは、皆さんが神殿の前に立っていることを想像してみてください。大きな柱が何本も並んで、空へ向かってすっと立っているように見えますよね。
ところが、人間の目には不思議な「錯覚」があります。**縦に長い柱を真っ直ぐに立てた場合、それを見ると「途中がくびれて見える」**という視覚の歪みが生じるのです。
つまり**実際に真っ直ぐだと、逆に「曲がってるように見える」**という現象が起きてしまうんです。
古代ギリシャの建築家たちは、これを長い年月の中で経験的に理解し、なんと紀元前の時代にしてその補正方法を編み出していたのです!
■ 「エンタシス」とは?
この視覚的な歪みを補正するために行われた技法が「エンタシス」。
語源はギリシャ語で「張り・ふくらみ」を意味し、柱の中心部分に微妙なふくらみを持たせることで、あえて真っ直ぐに見えるようにデザインされたのです。
このふくらみはほんのわずかで、柱の直径にしてわずか数センチ程度。目で見ても気づかないほどの緩やかな曲線ですが、これによって、柱がより力強く、しなやかに、美しく見えるようになるのです。

■ 最高傑作は「パルテノン神殿」
エンタシスの最も有名な例といえば先ほどから使っている写真、やはりアテネの「パルテノン神殿」。
古代ギリシャを代表するドーリア式の建築で、柱、床、壁、すべてのわたって「視覚補正」が施されています。
例えば:
・柱は中央がふくらみ、上に向かって細くなることで「伸びやかさ」と「安定感」を両立
・神殿の床面(スタイロベート)は完全な水平ではなく、中央がわずかに盛り上がっている
・コーナーの柱は、光の当たり方の違いを考慮して太さが調整されている
このように、見た目を「正しく」するために、あえて「不正確」に作るという逆転の発想が、ギリシャ建築の美学の核にあります。
■ 人間の目と建築の関係
エンタシスが教えてくれるのは、建築は、ただ構造的に成り立っていればいいのではなく、人間が同「見るか」まで計算に入れた芸術であるということです。
現代建築では、CADや3Dソフトでmm単位の設計ができるようになりましたが、それでも「視覚補正」の重要性は失われていません。むしろ古代において、それを人の手と感覚で実現していたことに、現代人は感動すら覚えるのです。
■ 日本建築にも似た感覚が?
実は、日本の伝統建築にもギリシャのエンタシスに似たような「視覚への配慮」があります。
たとえば、**神社仏閣の屋根の反り**や、柱脚を少し高くするなど、見たときに「重力感」や「軽やかさ」が伝わるように調整する工夫があります。

つまり、人の「目」と「感性」に寄り添った建築は、時代や文化を超えて共通するものなのです。
■ おわりに
「柱は真っ直ぐ」という感覚を覆すエンタシスの存在は、建築がどれだけ深い観察力と美意識によって作られてきたかを教えてくれます。
古代ギリシャの建築家たちは、見る人の”錯覚”まで読みとって、真の美しさを創造したのです。
次に歴史のある建物や神殿を見たときは、ちょっと柱の「ふくらみ」に注目してみてください。きっと、そこに込められた美の哲学が、皆さんの目と心に伝わってくるはずです。